第13話 バイク三昧ふたたび
結婚して1年がたつ頃。
店の2階に住居を移した公彦と美也子は、
落ち着いた生活になりつつあった。
美也子の体調は少しずつ良くなり、
バイクにも乗る気力が戻ってきた。
当時二人が所有していたバイク。
画像の後ろに見える屋根下に置いていた。
公彦は夜9時ごろ、工具箱を家から運び出し、
軒先でバイクいじりを始める。
そこは営業時間中は車を止めたり、
荷物を置いたりする場所。
毎回全部片づけなければならない。
それでもイジれるスペースがあるのは、
ありがたかった。
夜中の12時には工具を片づけ、バイクも元に戻し
なんちゃってガレージは跡形もなくなる。
それは毎日毎晩のこと。
みやこは近所から苦情が来るのではないかと
気が気ではなかった。
近所の人と会った時、
「夜うるさくありませんか?」と聞いてみた。
「きみちゃん、ほんと!好きだよね~!」
「高校生の頃からだもんね~!」
「防犯代わりになって助かってるよ♪」
ありがたいお言葉である。
公彦も近所には気を使ってイジっている。
工具がアスファルトに落ちると音が響くから、
下にウエスをひく。
調子見に走ったとき、最後の交差点を
曲がったら、エンジンを切って惰性で戻る。
夜10時過ぎにはうるさいことはしない。
努力の甲斐あってか、
今のところ苦情は一度もない。
ありがたいことである。
ある夏、やけにパトカーの巡回が多い年があった。
市内でバイクの盗難があったのだろうか。
パトカーがスーっと来て、ジロリと見、いなくなる。
公彦的には気分が悪い。
そのうち来なくなったが、あまりに毎晩イジってる
から、マークされたんじゃないの?とみやこが
放ったイヤミは、まったく聞こえなかった公彦。
そんな公彦に、初めての大型バイクがやってきた。
KAWASAKI GPZ1000RX
友人が新しいバイクに乗り換えるからと、
格安で購入した。
リッターバイクはやっぱり違うぜ!と大喜びだったが、
あまり遠出をすることもなく、
ほとんどイジることもなかった。
この頃イジっていたのは、RZ。
少しずつ自分の手で直していく。
それはまるで、1/1のプラモデル。
財布と相談しながら部品や工具を買って、
取り付けては試乗して。
失敗しても経験値があがったとめげることもなく、
それはそれは、毎日楽しいバイクライフであった。
しかし、油断していると美也子のカミナリが落ちる。
「い・い・加減・に・し・な・さ・い!(怒)」
すごくビビって、少しだけ反省する公彦だが、
バイクをイジらない日は、バイク雑誌を読んでいる。
懲りない男はまた、怒られる。
緊張した空気が漂い、夫婦協議がスタート。
「たまにはイジらない日を作りなさいよっ!」
「は~い・・・。月に何日ならいいの?」
「週一休み!」
「えぇ~!そんなの多すぎ~。」
「十分でしょ!!!」
「もう少し譲歩できませんか!大臣!!」
「ボク、窒息してしまいます!」
公彦、最後まで譲らず、
「休みは月3日」で押し通した。
「そんなに楽しいのなら、私もやる。」
美也子も夜、バイクをイジり始めた。
自分のバイクを磨きながら
公彦の作業を見て質問する。
「それは何なの?」と。
よくやっていたのが、キャブレターのセッティング。
私にもやらせろと手を出す。
ネジひとつ外すのに時間がかかる。
美也子は今も、1人では何もできないが、
この頃見て教えてもらったことが、
なんとなく役に立ったと思っている。
燃焼室の構造やピストンの動き方などは、
現物で説明してもらうと、分かりやすかった。
結構バイクイジリも楽しいな、と思った美也子だが、
手が荒れる、腰がイタイ。
自分がやらなくても、専属メカニックいるし?
モチはモチ屋に任せることにした。
バイクライフを満喫している公彦と美也子。
さらにどっぷりハマっていく。