第14話 泥んこに遊ぶ
バイクいじりを再開した公彦は、部品を頼むのに
同じ町のバイク屋さんに出入りするようになった。
そのショップはオフロード色が濃く、何度か行くうちに
林道に行かないかと誘ってもらうようになった。
柏崎周辺は、山。
少し走れば林道は無数にあり、
オフ好きにはもってこいのエリア。
公彦はあまり林道を走ったことがなかったが、
元々オフロードが好きである。
一緒に走る仲間もできて、
再びオフにどっぷり浸かり始めた。
ある時、美也子も一緒に行こうと、公彦が誘う。
林道は怖くて不安な美也子だが、
ゆっくり走れば大丈夫と言われ、行くことにした。
林道入口で仲間達と待ち合わせ、
「じゃ、行こうか♪」と走り始める。
数秒で、誰もいなくなった。
・・・だよねぇ。
1人取り残された美也子。
もちろん、公彦もいない。
林道デビューも1人たくましく頑張ることになった。
ゆっくりヨタヨタ走る。
すぐに汗が噴き出てくる。
アクセルを開ければ、リアが滑り、
下りでブレーキをかければリアがロックして、怖い。
土と石、泥・・・。
見えない仲間を追いかけて、走る美也子。
大したことない距離と時間がやけに長く感じる。
林道は、怖さと楽しさの両方があった。
オフロードといってもいろいろある。
林道をトコトコ走る、ツアラー系。
道無き道を行く、アタック系。
クローズのコースを走る、レーサー系。
この頃の公彦と美也子は、コース走りと
林道アタックが多かった。
仲間が集まると、
「今度はゲロツーだ!」とか「虎の穴だ!」と
言っては、本当に連れて行かれる。
公彦はそこそこテクもあり、楽しめるのだが、
美也子にとってはリアルアドベンチャー。
そんなトコ、登れません!!的な場所の時、
何度かは自分でアタックする。
ダメな時は誰かにクリアしてもらい、
自分は這って登る。
ゼーゼー、ハーハー、口も聞けない状態な美也子。
どうやら、自分を追い込むのが好きなようである。
雪が降っても山で遊んでいたあの頃。
随分鍛えてもらった気がする。
公彦、クリア。
こんな感じで遊んでいた。
美也子、泥だらけ。
こんな感じで土に遊ばれていた。
二人はエンデューロと呼ばれる草レースにも
よく出ていた。
公彦が参加するのは3時間耐久。
決して目立つ走りではないのだが、
終わってみれば、入賞しているタイプの男。
特にレインコンディションの日は、強かった。
美也子は1時間半のクラスで参戦。
男性に交じって走るのだが、
ノロノロしていると、後続車から罵声が飛ぶ。
「おっせ~んだよっ!」
「どけっ!」
「ヘタクソッ!」
オフロードレースは、男の闘争本能をむき出しにする。
遅い奴ははじかれ、転んだ奴は踏みつけられる。
実力勝負の分かりやすい世界だった。
HONDA XR100
美也子がエンデューロで乗っていたバイク。
これでずいぶん練習した。
乗りこなせるようになってくると、
ステップアップしたくなる。
その年の冬、YAMAHAからNEWマシーンが
発売されると聞き、試乗もしていないのに、
美也子はバイク屋に予約を入れた。
YAMAHA TT125
本当に乗りやすくて、いいバイクである。
現在も所有している。
来シーズンはもっとレースに出るぞっ!!
気合いも最高潮。
あとはバイクが来るのを待つだけ♪
ある日、仲間と林道で遊んでいた美也子。
ちょっと熱っぽいなぁ。体調がイマイチな感。
もっと遊びたいけど、無理することもないかと
1人で先に帰ってきた。
イマイチなままの数日後、
妊娠していることが判明した。
え?
えええぇぇ~~~っ!!!!!
バ、バイクが・・・。
美也子の妊娠を、公彦に伝えるところから
次回は始まる。