第15話 変わらない生活
バイクで遊びまくっていた中村夫婦に、
コウノトリが赤ん坊を運んできた。
予想外のことにビックリな美也子だが、
ま、こんなこともアリでしょ♪と気持ちを切り替え、
公彦にどうやって報告しようかと、ニヤニヤしていた。
ある日のランチ時。
テレビを見ながら食事をする公彦に、美也子は言った。
「あのね、妊娠したの。」
「ふ~ん。誰が?」
(テレビを見ながら適当に返事をする公彦。)
「私がっ!!」
(目ん玉を見開き、ビックリな公彦。)
「・・・・・・誰の子?」
あまりにビックリすると、
人はとんでもないことを口にする。
「あんたの子に決まってるでしょーーー!!!(怒!)」
「そ、そうか・・・(汗)
そうだよね・・・(汗×10)」
考えがまとまらず、軽いパニック気味の公彦。
また無言でご飯を食べ始めた。
随分あとになってから聞いたのだが、
妊娠を告げられた事が、
人生で一番のビックリ大賞だったそうだ。
その年の冬。
男の子が生まれた。
母子ともに元気だから、
もう退院していいよと、1日早く病院を出され、
美也子と息子は自宅に戻ってきた。
そして、初めての育児が始まる。
お風呂担当となった公彦。
2日目に湯船へ息子を落としたが、
笑ってごまかす。
3日目の夜。
公彦が部屋から静かに出ていき、
作業着とジャンパーを着て戻ってきた。
「オレ、やることないじゃん?」
「じゃ~ね~♪」
バイクいじりに出ていく公彦。
あ然とする美也子。
公彦の生活パターンは数日で元に戻った。
母親は、そうはいかない。
ちょっと泣くだけで、人を思い通りに動かす
王子様の召使い期間である。
生活が激変し、常に寝不足状態な日々。
おんなって、大変なのである。
春になった。
雪も無くなり、そろそろバイクシーズンという頃。
お疲れ気味の美也子に公彦が言う。
「バイクに乗ってきなよ♪」と。
そんな時間があるなら、寝かせてほしいわよ。
子どもが気になるから、乗る気にならないわよ。
久しぶりだから、ちょっと怖いのよ。
バイクに興味がなくなってたら、どうするのよ。
いろいろ言っては乗らない美也子。
それでも毎日のように公彦は「乗れ」という。
「あ~もう!うるさい!乗ればいいんでしょ!」
美也子は1年ぶりにRZに乗った。
予想以上に・・・・・・楽しい!!! 気持ちいい!!!
やっぱりバイクは最高だねっ!
近場をお散歩的に流している間、
子どものことはすっかり忘れていた。
3時間のお散歩から戻った時、
息子が泣いているかも・・・と心配したが、
ずっとご機嫌だったと言う。
そんなモンですか・・・。
勢いのついた美也子、
オフロードの草レースに参戦する。
出産後5ヶ月で復帰。
体はキツかったが、楽しいレースだった。
更に勢いを増した美也子。
小国町で開催される雪上エンデューロにも参戦した。
チビッコ&レディース部門。
スタート直後。出足好調な美也子。
この日はトロフィーをもらえた。
当時出始めた「前向き抱っこヒモ」が大活躍。
なんだか笑える二人の姿は
世間にも好評だった。
出産後も充実したバイクライフを送れているのは
やはり公彦のお陰。
仕事と育児、そして遊び。
程良くバランスを取りながら、
3人の日々は過ぎて行った。