第4話 世界が広がる
付き合い始めて2~3ヶ月過ぎた頃だったか、
美也子が知り合いから、バイクをもらってきた。
HONDA VT250F
このバイクがどんな背景で発売されたのかを、知らない。
今になって、少し調べてみた。
1980年にRZ250がセンセーショナルに発売され、
82年にRZキラーとして、VT250Fは市場に投入される。
その扱いやすさから瞬く間に人気車種となり
シリーズ累計14万台以上(派生系を除く)を売り上げる
大ヒット車両となった。
そんなに人気があったのかと、新発見である。
何も知らずに乗っていた。
VT250F(以下VT)は、不動車だった。
公彦と一緒に引き取りに行く。
VTを一通り見回した公彦は、やけに機嫌がいい。
思ったより状態がよかったのだ。
VTはそのまま公彦のアパートへ運び、
直してくれることになっていた。
自分の彼氏がバイクを直してくれる。
すごく誇らしくて、嬉しくて。
彼氏評価が2割ほどアップした出来事だった。
これから私も同じ世界に入れるんだ。
バイクが来たら、どこに行こう?
バイクって、どんなに楽しいんだろう?
免許を取ってからしばらく経っていたので
少しだけ不安もあった。
バイクに乗っている友人もいない。
みんな車に移ってしまったから。
公彦がいるから、大丈夫でしょ♪
不安はこの一行で、消えた。
VTの修理が終わり、二人でプチツーへ。
ものすごく緊張していた。
一番の心配は・・・立ちゴケ。
起こせる自信がなかった。
エンジンをかけ、ギアを入れ、クラッチをつなぐ。
ふらつきながら、公彦の後を追う。
全身に力が入り、ガチガチだった。
着いたところは、お台場。
まだフジテレビもなにもなくて、のんびりした場所。
片道30kmのプチツー。
途中の直線道路で、公彦は見えなくなった。
初めてバイクで公道を走る彼女を置いていった。
彼氏評価、5割減。
公彦が見えなくなったとき、本当にショックだった。
車はいっぱいいるし、恐くて不安で・・・。
もちろん公彦に文句をぶつける。
にこにこ笑いながら、公彦は言う。
「だって、道まっすぐじゃん?迷わないでしょ♪」
確かにそうだ。バイクは所詮、1人で乗るもの。
美也子は納得するも、気分はすこぶる悪い。
もうちょっとね、段階的に突き放すとか
できないのかしらね?この男っ!!
その後、美也子の家まで下道で帰る。
90㎞の帰り道。
ここはしっかり併走してくれた。
平日休みが多い美也子。
バイクに乗りたければ1人で乗るしかない。
奥多摩方面には、よく行った。
平日は空いているから練習するには丁度いい。
乗るたびに新たな発見と、疑問が湧いてくる。
そのたびに公彦先生に質問をする。
Q:コーナーでフロントが内側に入っていく感じがするのはなぜ?
A:フロントが16インチだから
先生、意味が分かりません。
Q:止まる時にカックンてならないようにしたいのだけど?
A:止まる直前に、Fブレーキをちょっと緩めろ
先生、できません。
それからは公彦のうしろに乗るたび、
乗り方を見習い、マネるようになった。
美也子は理論より、感性が先にたつタイプらしい。
少しずつ上達し、楽しいバイクライフを送る、
20代前半の美也子であった。